プロジェクト

【大学キャンパスにおける大規模震災時を想定した、生活者の視点から見た
                            避難所生活シミュレーション教材の開発(水野勲・長谷川直子・桑名杏奈)】

目的

本研究の目的は、さまざまな状況下で災害時の現象相互の結びつきを明示化したストーリーを体験できるシミュレーション教材を作成することである。災害時に起こりうることは無数にあり、その組み合わせはほとんど無限である。教材の中でいくつかのシナリオを体験し、その対応策を考えることで、実際の災害時に柔軟な対応ができるようになる、また、災害に対して何を備える必要があるのか知ることができるような教材の提供を目指している。 2013年度は以下の取り組みを行った。




1.「超短期モデル」の実装

2012年度にフレームワークを作成した「超短期モデル」について、実際にコンピュータ上で動くようにプログラムを開発した。「超短期モデル」とは、地震発生から数分間に起こると考えられる問題を盛り込んだものである。プレイヤーは、火事・本棚倒壊などの地震に関する問題を解決しながら屋外の避難所に逃げることを目指す。舞台は、ごく単純化した大学キャンパスである。象徴的な建物として高層の研究棟・講義棟・事務棟を用意した。高層階からは階段を使わないと逃げられないため避難に時間がかかるなど、建物の構造を単純化して表現している。場にはプレイヤー以外に、あらかじめ決められたルールに従って動くエージェントがいる。エージェントは正常状態・パニック状態・怪我状態の3つのステータスをもつ。事件がなかなか解決しないとある一定の確率でパニックを起こす、パニックを起こした人は一定の確率で事件の部屋から逃げ出す、逃げ出した人はある時間がたつとパニックから復帰する、などのルールがあらかじめ定められている。エージェントの初期配置とステータス、事件の発生場所によって、事件解決までの時間が大きく異なる。プレイヤーは本教材を何度か行うことで「このような条件とこのような状態が重なることで、事件の規模に影響を及ぼす」ということを、いくつかのパターンをもって知ることができる。以下に開発画面のキャプチャを掲載する。





2.ワークショップ「LIDEE」の開催

本学生活科学部 人間・環境科学科が企画運営を行う、ライフ・イノベーション・ワークショップ・プログラム「LIDEE」にて、「避難所運営ゲームの実践と考察」と題して1日分の企画を担当した。

午前中には、宮城県総合教育センター 教職研修班 主幹の安斎善和先生をお招きし、2011年3月11日の東日本大震災に関する貴重な体験談をご講演頂いた。特に、普段からの防災教育の重要性について、網羅的な示唆を頂いた。

午後はまず、参加者を4〜5人ずつグループに分けて「避難所運営ゲームHUG」を実施してもらった。ゲームの中で次々に起こる出来事に対し、グループ内の意見が全員一致して対処できることもあれば、意見が割れて議論が紛糾し、結局結論が出ないこともあった。時間の都合上、最後までゲームが終わらずに打ち切ってしまったグループもあったが、それも、実際の現場では非常に過酷な状況で厳しい判断を瞬時に行わなければならないという学びにつながった。ゲーム後のグループごとの発表内容を聞いて、自分のグループでは出なかった意見があって、物事の解釈の仕方はひとつではないことに気付いたとの声もあった。また後日提出のレポートでは、考えるべき条件がたくさんあり何を優先すべきか判断が難しかったとの意見が多かった。

最後にコンピュータ室に移動して、1.の「超短期モデル」を実施してもらった。ワークショップLIDEEの趣旨のひとつとして「創造的に問題を解決する能力を養うこと」とあったため、「完成したゲームをやってもらう」というよりは、本教材が開発中のものであることを説明したうえで「教材を改良する」という視点で実行してもらい、「人間の複雑な行動を、単純なルールの組み合わせ」で表すことを中心にレポートにしてもらった。これはプログラミング等、ソフトウェアづくりの基礎的な考え方につながると期待される。




3.学会発表・論文の執筆

今までの取り組みを学会発表や論文で発表した。詳細は本報告書の最後に列挙する。




4.「中期モデル」の開発

当初の目的である「避難所生活シミュレーション教材」の開発に着手した。被災者自らが生活することを期待されている1週間の避難所運営を、さまざまな条件の中で疑似体験するものである。特に、震災後の不確実な状況の把握、多様な人々(特にマイノリティ)の存在への配慮、自分の専門的能力の総動員によって、避難所内の協力関係をできるだけ大きくする努力(ポイントが高くなる)をゲーム内で経験できるようにする。1.「超短期モデル」のシステムをベースにしたマルチエージェントシミュレータを予定している。




5.既存の防災教材の調査・実行、講習会への参加

H24年度は机上で行う教材を中心に調査・実行したが、H25年度は実際の講習会への参加、E-Learning教材の実行などを行った。

  • 防災士研修センター「防災士研修講座」
    郵送された教本を元にした事前学習を踏まえて、2日間の講習を受ける。講習の内容は、防災士の役割、自然災害のしくみや起こりうる被害・対策、避難所の運営に関すること、ハザードマップや耐震などの防災対策、と多岐にわたる。講習の最後に防災士の資格取得試験があり、合格すると日本防災士機構の「防災士台帳」に、防災士として登録される。
  • NTTラーニングシステムズ株式会社「災害シミュレーション演習eラーニング」
    まず自然災害のメカニズムと過去の災害事例、防災対策として有効な「目黒メソッド」「目黒巻」について学ぶ。次にロールプレイングゲームの形式で、会社編と自宅編の災害対応シミュレーション演習を行う。提供された勤務先や役職などの人物設定・状況設定の下で、自身が取りうる行動を回答する。回答を送信すると、専門家が「災害対応力」を診断し、フィードバックしてくれる。最後に同様の状況下での模範行動例を学び、自身の行動と照らし合わせて災害対応力の向上につなげる。
  • 職業訓練法人日本技能教育開発センター「自主防災講座『災害対応の実践』」
    自然災害の仕組みの理解から、防災の知識・対応技術の習得、行政の対応の限界と個人・家庭・地域レベルの対応の重要性の理解、企業としての災害対応など、実践的な内容を幅広く学ぶことができる。

なお来年度以降は、今までの結果を踏まえて、4.「中期モデル」の完成を目指す。




紀要論文

  • 水野勲、長谷川直子、小田隆史、桑名杏奈, 「震災に対応した地理的シミュレーション・ゲームの開発に向けて」, お茶の水地理, 52, pp.11-20, (2013)
  • 長谷川直子、桑名杏奈, 「大学キャンパスにおける将来の大規模震災時を想定した防災シミュレーション教材の開発」, お茶の水地理, 52, pp.40-44, (2013)

研究発表

  • 桑名杏奈、長谷川直子、小田隆史、水野勲、「防災シミュレーション教材の開発に向けての取組み」、情報知識学会 第21回(2013年度)年次大会、5月、2013

研究発表の紀要

  • 桑名杏奈、長谷川直子、小田隆史、水野勲, 「防災シミュレーション教材の開発に向けての取組み」, 情報知識学会誌, 23(2), (2013)

ワークショップの一部を担当

  • ライフ・イノベーション・ワークショップ・プログラム「LIDEE」
    (企画運営:お茶の水女子大学生活科学部 人間・環境科学科)
    2013年9月25日(水)「避難所運営ゲームの実践と考察」を担当

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