プロジェクト

【「グローバル人材」に必要なリーダーシップ・フォロワーシップの形成と
                                          それを促すシミュレーション教材の作成(堀切友紀子・伊藤貴之)】

【1】大学生を対象とした研究からの知見による留学体験の意味づけの整理

第1段階は、大学生を対象とした留学の位置づけとその影響や効果等の概念を、文献調査により整理した。 具体的には、主に交換留学生を対象にした研究文献の調査・分析を行った。 交換留学生を対象とした理由は下記3条件が含まれることである。 その条件とは、 @所属大学と留学先大学の区分が明確であり双方で学生身分が保証されている、 A留学期間が有限であり必ず所属大学に帰国することが前提である、 B所属大学及び留学先大学においての象徴的な代表としての立場である、 ということである。これらは、日本の大学において「グローバル人材」を育成するために、今後より推進される一般的な留学形態と考えられ、 留学経験が交換留学生に具体的にどのような影響を与えているのか調査・分析した。 その結果、上記3点の中でも、特にAの留学期限が有限であることに加え学位取得を留学の目的としないことから、語学能力向上や異文化体験による経験に焦点を当てた研究が数多くなされていることが明らかになった。 一方で、留学生を対象にした研究は現状では「ホスト−ゲスト」という枠組みの中で行われているものが多く、3つ以上の多文化要素を持つ学生を対象にした研究は官憲の限り見当たらないことが明らかになった。




【2】多文化要素を背景に持つ大学生の留学体験の特徴に関するインタビュー調査

第2段階は、上記第1段階で得られた概念をもとに、多文化要素を背景に持つ留学を経験している/していた交換留学生を中心に半構造化インタビューを行った。 対象者は、両親の国籍、本人の国籍、所属大学、留学先に3か国以上の要素を持つ大学生5名である。 その結果、多文化要素を背景に持つ大学生にとっての留学体験は、@留学に至るまでには自己決断の過程を経ており、A留学を経験する中で自らの多文化背景に対する複雑な感情に対峙し、B自己の変化を意識化することで社会に対する認識を深める、という特徴を持つことが明らかになった。




【3】多様な学生の留学体験に関する量的調査

第2段階で明らかになった多文化を背景に持つ大学生の留学体験の特徴が、どの程度普遍性を持つのかを客観的に比較する対象として、複数文化要素を背景に持たない日本人大学生に対してインタビュー調査を行った。 対象は、オーストラリアの大学で留学をしている日本人学生8名と、交換留学を終えて日本に帰国した大学生7名である。 その結果、教育現場のみでなく社会全体で多様性を尊重する流れが進んでいるオーストラリアに留学した学生は、周囲に多文化・多言語を背景に持つ学生の割合が圧倒的に多く、彼らとともに学ぶ経験を通して単一文化を背景とする学生も留学において自らの多様性を意識する体験をしていることが明らかになった。 また、留学を終えて帰国した学生を対象としたインタビュー調査においては、多様性を意識してから日本に帰国した後、自らが体験した多様性に対する態度を日本社会に置いてどのように活用していくべきかを模索する傾向が見られた。

このことから、留学前に多文化要素を持たない学生も、留学体験により自らの中の多文化要素に気づき、国際化社会における自らの存在を意識した自覚的な行動をとるようになるという、多文化を背景に持つ学生と類似した経験を行っていることが明らかになった。 さらに、彼らの多くが第2、第3の留学やその後のキャリアにおいても国際的な分野を志向していることから、多様性の意識化体験が次の海外体験へとつながるサイクルが推察され、そのサイクルの中での留学の位置づけを検討する必要性が示された。




【4】多様な学生の資質・特性に関する量的調査

第4段階は、上記第2、第3段階で明らかになった多様性の意識化と留学体験のサイクルのモデルを構築するため、インタビューから得られたデータを断片化して概念・要素を抽出し、それぞれの要素の関連性を分類する段階である。 既に第2段階の多文化を背景に持つ学生の概念・要素については項目を抽出してあるが、これに第3段階の単一文化を背景に持つ学生のデータを加えることで、異文化・多文化背景において生じる状況やそのストーリーの傾向を段階的推測し、各段階における実態に即した具体的項目を抽出する必要がある。 現在はこの第3段階のデータを断片化し概念・要素を抽出するための作業を行っているところであり、今後そこから導き出された項目を質問項目とし、より多くの日本人大学生・留学生・外国人大学生を対象とした量的な調査を行う予定である。 その上で、留学経験者の留学前、留学中、留学後の体験を整理する過程において、実際に自分が留学を思い立ったらどのようなことが起こり得るかを、学生自身の資質・特性を踏まえて体験できるストーリーを作成するための準備を行う。




【5】リーダーシップ・フォロワーシップに関する仮説生成とプログラム開発

第5段階では、この第4段階において作成されたストーリーに従って、留学を思い立ってからの状況遷移を再現する確率モデルと、インタビュー回答のデータベースを構築し、それを活用したシミュレーションの計算機プログラムを開発する。 このプログラムでは、留学を思い立ってからの状況遷移を利用者の経験や性格に応じて確率的に進行させ、その結果として想定される事象を利用者に提示する。 また、データベースに蓄積されたインタビュー回答者のコメントやアドバイスを提示する。以上の擬似体験によって、体験者自身が下記のことを意識化できることを本研究の目標とする。

学生自身がこれまでどの程度のグローバル化社会に触れ経験があるか
未体験のグローバル化社会に身を置いた際にどのようなことが起こるか
今後、多様化状況において自分はどのような認識・態度・行動をとる傾向にあるか
今後、留学を希望する学生にはどのような留学目的・留学先・留学期間が適切か
またそうでない学生には留学の実現性・可能性の内容はどのようなものか

現在は、このシミュレーションのプログラム開発に必要なデータを収集するため、第4段階の量的調査データが効果的にシミュレーションに援用されるためのプログラムのデザインを検討している段階である。 第4段階の量的調査の結果が充実してくることで、シミュレーションプログラムのストーリーを固められるように今後の作業を進める予定である。




【6】多文化状況シミュレーション教材の運用と大学生対象の試用

第6段階は、上記で作成したシミュレーション教材を実際に学生が運用できるものとし、お茶の水女子大学の学生を対象に試用することで、より学生の学びに即した形となるよう調整する。

その際、あまり留学に関心がない学生、留学希望者、留学体験者(短期・長期)など様々な学生に対応できるように調整する過程を通して、変化していく「グローバルな人材」の資質・特性や知識・技能を明確にするとともに、それらを学生自身が自己認識できる教材としての信頼性を向上させることを目指す。




研究発表

  • 堀切友紀子 2013年8月(平成25年)「多文化要素を背景に持つ交換留学生の特性と留学体験」第18回留学生教育学会研究大会 2013年8月『第18回JAISE研究大会プログラム・要旨集』40-41

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