プロジェクト

【生け花シミュレータの開発(椎尾一郎・神原啓介)】

華道は日本を代表する伝統芸術の一つですが、初心者が華道の手法を習得するには敷居が高いといえます。 一方で、花を生ける行為は、日常生活で普通に行われるものであり、 そのような場面で華道やフラワーアレンジメントの知識が求められることも多くあります。
そこで、本研究では、花(花材)が手元にあるときに、これを元にした生け花シミュレーションシステムを開発しました。 シミュレーションには、花材の色や長さなどの物理的な制約や、華道やフラワーアレンジメントで使われる色と形に関する基本ルールを反映します。
花材は花瓶(花器)に生ける際に適切な長さに切り縮めますが、この作業は不可逆です。 実際に、短く切りすぎた場合にやり直しが効かないので、シミュレーションの手法が有用といえます。
本研究では、華道やフラワーアレンジメントのルール、利用者の工夫を反映しつつ、 生け花の結果をシミュレートする生け花シミュレータを開発し、そのためのユーザインタフェースを実装、その有用性を確認しました。
評価実験は、フィンランドの大学COU (Central Ostrobothnia University of Applied Sciences) の付属研究所CENTRIAの協力を得て行い、 ヨーロッパの人たちからのフィードバックを得て、興味深い内容となりました。



生活の中で生け花が行われる際には、生活を豊かにするために花材を購入したり、庭の花を摘んだり、 プレゼントされ花束を入手したりして、最初に花材を入手するシナリオが考えられます。
そこで、本研究では、このようにして入手した花材を元に、 華道やフラワーアレンジメントの手法に従った生け花のシミュレーションを行うシステムを開発しました。
本システムには以下のような機能があります。

  1. ① ユーザが揃えた花材をカメラで撮影し、取り込む機能
  2. ② その映像から花と茎の部分を認識し、花の色と、茎の長さを取得する機能
  3. ③ 花の色と茎の長さの情報から、生け花のルールに従った生け花パターンを複数生成する機能
  4. ④ 生成された仮想的な生け花を提示する機能
  5. ⑤ ユーザがこれらのパターンを閲覧し、必要ならば花の位置や茎の長さに変更を加えて生け花の結果を変更する機能
  6. ⑥ ユーザが生けようと決定した生け花パターンに対して、茎を切り縮める長さを表示する機能
  7. ⑦ 生け花シミュレーション結果などを写真共有サイトに公開することで、友人などで共有するソーシャルネットワークシステム機能

③ で実現する生け花ルールには、色と形に関する基本的なルールを採用しました。
この色ルールは、花の彩度や明度を上下方向に適切に配置するものです。
形ルールは、「花を立てる形」「全体を傾ける形」「集中的な構成」の3つの要素を適切に実現します。 これらのルールに従って適切な花の配置を複数作成し、取得した実際の花材イメージを使って、 生け花の結果をシミュレーション表示します。
また「とくさ」や「かすみ草」のような生け花の空間を埋める基本的な花材を配置する機能を実装し、その効果を確認できる機能もあります。 本研究ではさらに、以上の機能を使いやすくわかりやすくユーザに提示するユーザインタフェースを実装し、 生け花をシミュレーションするアプリケーションの有用性を評価実験により確認しました。




華道のルールを実装した生け花シミュレーションの提案を行うことで、シミュレーション研究の新しいテーマの開拓につながったと考えています。
また、華道やフラワーアレンジメントのルールを、コンピュータアルゴリズムとして整理し、 コンピュータ上で実装する手法の第一歩を提案することができました。
本システムは、Android携帯端末上に実装されており、日常生活の中で、気軽に本格的な生け花を楽しめる、 実用的なアプリケーションとなっています。 フリーウェアとしての配布も検討しています。




関連研究として、植物の特性を生かしてCGを生成する研究や、人が植物画を描く支援をする研究はいくつかあります。 しかし、実際の花材を元に、生け花をシミュレートするシステムは、先行研究に例が無く、独創的です。 また、一般的な花材だけでなく、雑草や歯ブラシなどの身の回りの素材を使っての前衛的な作品を、 シミュレーションの手助けにより作成することも可能です。
華道をシミュレーション研究テーマとしたことには、以下の有利な面がありました。 第一に、華道は日本の伝統芸術として世界に知られており、国際会議などで発表する題材として、 地の利を生かしたテーマとして評価されることが期待できます。 実際にAVI 2012での登壇発表に採択されました。
第二に、華道やフラワーアレンジメントを行うユーザの多くが女性であり、 本学がシミュレーション研究のテーマとして実施するのに適した内容といえます。 システム実装の工夫や評価実験において、本学の強みを発揮出来るテーマです。

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